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どうして人は花が好きなのか、なぜ花に意味を持たせるのか。
月刊フローリストに連載している「考花学のすすめ」を定期的に掲載しております。

【第二回】バレンタインフラワー

【第二回】バレンタインフラワーイメージ

日本でもすっかりお馴染みとなった楽しい行事、バレンタインデー。チョコレートを意中の男性に贈ることが定着していますが、この時期になると赤いバラなどの花を中心としたギフトで花屋の店先も彩られてにぎわいを見せます。

恋人たちの仲をとりもつこの日の起源に関しては諸説あるようです。13世紀の後半にイタリアの司教によって編纂された『黄金伝説』なる書物には3世紀にキリスト教会の一司祭であった聖バレンティヌスがキリスト教を異端視する、時のローマ皇帝クラウディスに処刑されたと書かれています。しかし肝心の聖バレンティヌスが実在の人物であったかどうかは定かではありません。

聖バレンティヌスは権力に対して毅然と抗う悲劇の英雄として語り継がれ、後日脚色が加えられたようです。クラウディスは勇猛なゴート族を退けてしまうほど武勇に長けた皇帝で、ローマ軍の士気を高めるため若き兵の結婚を固く禁じたと言われています。家庭に未練を持つと兵士の戦場での士気が下がると考えたのです。聖バレンティヌスはある若き兵と彼と将来を誓い合った少女とが結婚できないでいるのを気の毒に思い、密かに婚礼を挙げてやります。しかしこのことが皇帝の知ることとなり、聖バレンティヌスは処刑されてしまいます。そして彼が命を落とした日が2月14日とされているのです。

後のキリスト教会では聖バレンティヌスが実在したかどうか定かではないため、彼と結びつけられた2月14日という日は公的な記念日として定着しませんでしたが、この日を恋愛と結びつけて祝おうという気風が人々の間で長い年月をかけて育まれていきました。19世紀イギリスのヴィクトリア女王の治世(1837~1901)に2月14日に意中の男女にカードを贈る習慣が生まれたとされています。これは聖バレンティヌスの英語の発音からとってバレンタインカードと呼ばれました。

カードに花を添えて贈るようになったのもこのころです。イギリスでは当時花言葉がはやり、花に思いを託して相手に贈ることが流行していました。愛の思いを託すのに一番適していた花が赤いバラでした。バラはギリシャ神話やキリスト教徒の伝承も相まって、男女間の愛の象徴ともされていました。特に12本の赤いバラを束ねたブーケは完璧な愛の証しとして親しまれたのです。しかし今日ではバラだけではなく、他の多くの花が慕う相手に思いを伝える花として贈られています。赤いチューリップをはじめ、やはりバレンタインデーの花は赤いものが多いようです。これは赤という色がいにしえから生命力やそれからみなぎる愛の力を象徴していたことと決して無縁ではありません。

フローリスト連載2012年2月号より

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